Evolve power amplifiers 

 

CSPPアンプのためのエチュード

 6CW5/EL86

20W+20W

 パワーアンプの製作

 

タンゴのCRDシリーズは、プッシュプルで20W以内の真空管アンプに適した出力トランスで、 1次巻線の+B端子側がセンタータップではなく、プッシュプルの2つの巻線を独立して端子に引き出しているため、またその巻線の50パーセント位置にタップを設けているため、マッキントッシュ回路を実験する のに好都合。

マッキントッシュ回路とCSPP回路

下図がマッキントッシュ回路で誕生の歴史はこちらが早く、CSPP回路はその派生に位置する。


5極管やビーム管の第2グリッドは図のような接続をすることで、第2グリッドとカソード間の電圧を常に一定にできる。

B級動作ではカットオフした出力管側の出力トランスのコイルが開放状態になり過渡振動を発生するが、マッキントッシュ回路に用いる出力トランスはカソード側とプレート側のコイルを1対1のバイファイラ巻きで結合を密にしてあるため、能動状態にある側の出力管によってコイルがダンプされて過渡振動を発生しない。この回路の狙いは正にそこにある。

この回路を実現するにはバイファイラ巻き出力トランスを自作するか、カットオフしないようにA級動作とするしかない。
そのようの特殊な出力トランスを使わずともコイルが開放状態とならない回路がCSPPだ。


以下はCSPP(クロス・シャント・プッシュプル)のバリエーション。
浮動電源を大容量コンデンサに置き換え、トランスのセンタータップから電源を与えることも可能。

カソード側に負荷

プレート側に負荷

両方に負荷

センタータップ付スピーカを使用したOTL

マッキントッシュ風CSPP

 


出力管の選定

CSPP回路ではカソードに信号電圧が乗るため、出力管毎に独立したヒーター電源を設けない限りは、ヒーター・カソード間耐圧が確保された出力管を用いる必要がある。
カソードに乗る信号電圧の大きさの最大は出力管のプレート・カソード間供給電圧の半分であるため、出力管のプレート・カソード間供給電圧は、ヒーター・カソード間耐圧の2倍以内でなければならないという制約に縛られる。
トランスレスやOTLを前提に作られた出力管はヒーター・カソード間耐圧が高いが、そういう出力管は得てして第2グリッド電圧の最大規格が低いので、それによってプレート・カソード間供給電圧が制限される。
低いプレート・カソード間供給電圧で出力を稼ぐには、負荷インピーダンスを下げるしかないため、低いプレート電圧でも大きなプレート電流が得られる出力管が適している。

使用する出力トランスのタンゴCRD-5の容量に合わせて、出力20W程度が得られる出力管として6CW5/EL86を選択した。

未開封の6CW5を4本新規購入したが、ソケットに挿し込んだ途端、ピン周りのガラスが白化した。
内部まで及ばない部分的なクラックらしく通電しても異常は無いが、抜き差しの繰り返しや通電中の熱膨張によるストレスで進行しないとも限らず、気色悪い ことこの上ない。

中身は1970年代ごろの代物らしい。

しかも、4本の内、1本だけ特性が少し違う。
収集家でもない私が、リスクを考えずに未開封品などに手を出すから、つまらぬ損をする羽目になる。
これを教訓に、今後無駄遣いしないために割高でもペア選別品を購入しようと反省した。
しかし、お陰で不揃いなペアでどの程度の特性が出るかテストできる。

6CW5 3結Ep-Ip特性測定回路


X-Yにオシロスコープを接続しリサージュを観測する

4本の6CW5 3結Ep-Ip特性 X:10V/div , Y:20mA/div
 

 

G2と直列に抵抗を入れないと特性曲線に折れ目が出来る。
折れ目付近のEpでは発振を起こす。


回路図


出力管は6CW5/EL86で、出力トランスにタンゴCRD5を使い、マッキントッシュ風の接続としていますが、カソード側とプレート側のコイルをコンデンサで接続して、コンデンサにチャージしたエネルギーを浮動電源とする方式です。
このためカソード側とプレート側のコイルが磁気結合されている必要はなく、一方をセンタータップ付チョークコイルとすることも可能です。
そのコンデンサとB電源の間には出力トランスの巻線抵抗と漏洩インダクタンスが入るため、出力管に加わる電源リップルが減少するというおまけが付いてます。

電圧増幅段での工夫は、オープンループゲインを上げるために負荷抵抗を大きくし、尚且つ出力管に安定なバイアス電圧をかけることです。
金田式対称回路では負荷抵抗を大きくすると出力段のバイアス電圧を安定にすることが困難になります。その点を改良するため、出力管にかかっているバイアス電圧を基準電圧と比較して制御するサーボ回路を使いました。
またその基準電圧を電源電圧の変動に追随して変化させることで、プレート電流の変動をなくすようにしました。
制御をリアルタイムでできれば理想的ですが、それをやろうとすると最大出力が減少してしまうため変動を積分しました。


下は出力トランスの巻線抵抗と漏洩インダクタンスが直列に入りリップルが減衰することを示すオシロ波形。

上側はP-G2間の波形 Y:100mV/div
下側は電源の波形 Y:500mV/div

電源側で約1.5Vp-pあるリップル電圧が、P-G2間側では約0.1Vp-pに減衰している。


初期の実験では12AU7によるカソードフォロワだった。

片チャンネル分が出来た基板をテスト中

完成アンプ基板 部品取付面

アンプ基板 配線面

電源基板(後に負電源を倍電圧整流に変更)

完成した基板をテスト中

シャーシへ仮組

シャーシはリードS−5(250×180×60)。
2個のブートストラップのコンデンサには大きな信号電圧が乗るので、互いの間隔を開け、シャーシともストレー容量を減らすため、プラスチック製の取付具を使用した。
基板の下に真空管ソケットが隠れるため配線に苦労しそう。

配線終了

主な配線材はダイエイ20芯、出力トランスと真空管の接続の相関を取り違えて正帰還するなどで、その分部をやり直すこと3回、漸く出来た。
CSPPならではの要注意ポイントと認識していたが、それでこの始末だから情けない。

外観

塗装の色は明るいオレンジにした。
Rコア電源トランスは大きさが御誂え向きのタカチMB−5に収めた。

正面

出力トランスの間が開きすぎて見た目的に失敗した。
そういえばパソコン上だけでしか配置を検討していなかったことに気付いた。

背面

ACインレットを取り付けるスペースがなかったので、コード引出しとした。
電源トランスのケースカバーは、出力トランスを外さないと、ネジが外せないないお粗末さを笑ってください。


〔主な特性〕

ノイズ(入力ショート、負荷8Ω、フィルタなし):20μV

最大出力(1kHz、負荷8Ω):20W

高域特性(0dB=1.23W、負荷8Ω)
10kHz 0dB
50kHz -0.2dB
70kHz -0.6dB
100kHz -1.6dB
150kHz -5.2dB

歪率(負荷8Ω、1W)
100Hz 0.09%
1kHz 0.038%
10kHz 0.09%

出力インピーダンス:0.3Ω

上記全てRchのデータです。
Lchはペアバランスの不揃いな真空管を使っているため、ノイズが40μV程度にしか調整できず、歪率も若干悪くなっています。