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Super Triode Connection Ver.3
超3極管接続Ver.3 KT90 シングル ステレオパワーアンプ
MJ無線と実験 1993年2月号 に掲載

 

  • 電圧増幅に3極,5極複合管6AN8の5極部を使い,出力にKT88よりもハイパワーと謳われるKT90を用いて,KT90のプレートから6AN8の5極部カソードへ6AN8の3極部を通していわゆるP-K帰還を施した純管球式の新回路構成です.
  • これまでの超3極管接続アンプが電圧増幅管と出力管を直接結合していたのに対し,このアンプではコンデンサー結合を採用して,電源変動の影響を受けにくくしました.

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 UP.jpg (22561 バイト) FL2.jpg (21271 バイト) BK.jpg (22187 バイト) IN2.jpg (33346 バイト)


直結式の超3極管接続は回路全体が一つの3極管となり,驚異的な性能の3極管静特性を持つ反面,内部抵抗が低いために電源電圧の変動に敏感で,回路設計する際に出力管の動作電流を安定化する対策が必要になり,その部分で回路が複雑化しました.

そこで出力管へ入力される信号電圧の直流分カットを目的に,段間にカップリングコンデンサーを入れて,交流信号に対してだけ超3極管接続の効果が得られるようにしたところ,シンプルな回路で作り易いアンプになりました.

本機の回路は次の図に示すように,一般的なCR結合2段増幅回路の出力管V2のプレートから,初段管V1aの力ソードへ,3極管V1bのプレート-カソードを介して負帰還を掛けたものです.
超3極管接続のタイプはバージョン3に属します.

zu6.gif (19440 バイト)

 

このアンプの入力感度は,R1に対しR2とV1bのμが高いほど上がります.
出力管の見かけ上の内部抵抗は,R1が高く,なおかつ初段のゲインが高く,R2が低く,V1bとV2のgmが高いほど低くなります.
R1,R2はV1a,V1bの動作点で決まるので,入力感度やD.Fは球の特性に依存することになります.
ちなみにR1を∞(定電流源)とし,R2を0とした場合は超3結バージョン2となります.

V1a,V1bには標準的な3極,5極の複合管6AN8を使い,V2に旬の球KT90を採用しました.

当初KT90の詳しい資料がなく,実物は熱伝導の良さそうな太い支柱にEL34並みの大きな放熱板が付いているので,第1グリッド回路抵抗RgもEL34並みに判断して,560kΩとしました.
その後,ラジオ技術'92年9月号にRgはKT88並みとの記事が載りましたが,本機の場合はRgを低くするとD.Fと歪み率が悪化するため,力ソードフォロワーでドライブしようか,一層のことEL34に変更しようかと考えましたが,カソードバイアス電圧が安定していて,グリッドエミッションの問題はなさそうなため,そのままにしてあります.

電源電圧は6AN8の最大プレート電圧を守り,300V程度としました.
KT90のプレート損失をKT88並みに押えると,プレート電流は120mA程度となるので,電源トランスにタンゴMS‐360を採用しました.

出力トランスにはタンゴU-808を用いて,1次側インピーダンス2kΩで使用しています.

KT90のカソード抵抗は150Ωで,カソード電流がほぼ130mAとなりました.

V1aのプレート電圧が120〜250Vの間に入るように,V1aのスクリーングリッド電圧Esgをブリーダー抵抗Rbで調整してあります.

Esgが50〜100Vの範囲内に収まったため,これをヒーターバイアスに利用してハムノイズを軽減しました.

6an82.jpg (22591 バイト) No. メーカ

問題点

1 NL ハムノイズ(大)
2 NL 手を近づけるとノイズ発生
3 Zenith 特になし
4 Zenith ヒスノイズ,通電後2分で消える
5 RCA ハムノイズ(中)
6 RCA ハムノイズ(中)
7 RCA マイクロフォニックノイズ(大)
8 RCA マイクロフォニックノイズ(大)

初段がハイゲイン動作をしているために6AN8の品質が重要で,球によってはハムが大きいとか,機械的な振動を拾いやすい,手を接近するだけで誘導ノイズを出す等,不良品とは言えないまでも使用に耐えないものがありました.

本機に使用したシャシー鈴蘭堂SL-300は.角を溶接した造りのため外観も内側も出っ張りがなく,加工の容易なアルミ製で,鉄板の底板はなくても十分な強度があります.

シャシー上は,KT90をコーナーに寄せて放熱を良くし,今後の改造に備えてMT管2本を追加できるスぺースを残してあります.


kt90.gif (8475 バイト) KT90phot2.jpg (27563 バイト) KT-90
電力増幅用 ビーム5極管
ヒーター電圧
ヒーター電流
6.3 (V)
1.6 (A)
最大定格
プレート電圧
第2グリッド電圧
プレート損失
第2グリッド損失
カソード電流
750 (V)
650 (V)
50 (W)
8 (W)
230 (mA)
第1グリッド回路抵抗 固定バイアス 50 (kΩ)
自己バイアス 250 (kΩ)
ヒーター・カソード耐圧 300 (V)
動作特性    A1級シングル
プレート電圧
第2グリッド電圧
第1グリッド電圧
負荷インピーダンス
第1グリッド信号電圧
無信号時プレート電流
無信号時第2グリッド電流
相互コンダクタンス
プレート内部抵抗
最大出力
400 (V)
300 (V)
-27 (V)
3 (kΩ)
42 (V rms)
90 (mA)
4.7 (mA)
8.8 (mS)
22 (kΩ)
22 (W)
電極間容量 g1-p  1.8 (pF)
g1-h,k,g2,g3   29 (pF)
p-h,k,g2,g3  10 (pF)
ELEKTRONSKA
INDUSTRIJA
YUGOSLAVIA
MAGNOVAL

Type"KT90"

Eb=400(V)Ec2=300(V)
Ec1= - 27(V)
Ib=64 (mA), Ic2=3.5 (mA)

checked and
guaranteed by
Amtrans Corporation


品名 数量
真空管

Ei KT90

2
真空管

ZENlTH 6AN8A

2
ダイオード

東芝 1S2711

4
ダイオード

東芝 1S1588

1
電源トランス

タンゴ MS‐360

1
出力トランス

タンゴU‐808

2
コンデンサー

日本ケミカル 500V 100μF×2

2
コンデンサー

エルナー 160V 47μF

2
コンデンサー

ASC(X363) 400V 0.1μF

2
酸化金属皮膜抵抗

5W 150Ω

2
酸化金属皮膜抵抗

1W 820kΩ

2
酸化金属皮膜抵抗

1W 100kΩ

2
酸化金属皮膜抵抗

1W 39kΩ

2
酸化金属皮膜抵抗

1W 1kΩ

1
炭素皮膜抵抗

1/4W 560kΩ

2
炭素皮膜抵抗

1/4W 100kΩ

2
炭素皮膜抵抗

1/4W 5.6kΩ

2
炭素皮膜抵抗

1/4W 1kΩ

2
シャシー

鈴蘭堂SL‐300

1
電源スイッチ

LED付 ミヤマ DS‐850

1
ヒューズ

3A

1
ヒューズホルダー 1
MT9Pソケット

マイカモールド 茶

2
US8Pソケット

マイカモールド 茶

2
2Pピンジャック

金メッキ

1
端子台

10P

1
トラス小ねじ

3×10 , 3×20 , 4×15

適宜
配線材

AWG20 , AWG16 , その他

適宜

入出力特性 周波数特性
zu7.gif (6002 バイト) zu8.gif (6697 バイト)
歪率特性
zu9.gif (8014 バイト)

100Hz 1kHz 10kHz
100Hz.jpg (11804 バイト) 1kHz.jpg (12080 バイト) 10kHz.jpg (12562 バイト)

音質はカップリングコンデンサーが入っても超3極管接続の特色は損なわれることはなく,むしろより滑らかで柔らかくなり嫌な音がなくなりました.


各種の真空管で自由に製作できるように設計方法を紹介します.

下図のように電圧増幅管V1,帰還管V2,出力管V3とします.

zu10.gif (7099 バイト)

このアンプに入力される最大信号電圧の波高値を3Vピーク・ツー・ピークとすると,V1のカソード電圧Vk1はその1/2以上に設定する必要があるので2〜3Vが適当です.
Vk1の設定はV2のカソード抵抗R2を変えて調整します.
V2が低μ管の場合はR2が大きくなり,逆に高μ管の場合はR2が小さくなります.

V1とV2の共通カソード抵抗R1でV2のプレート電流が決まります.
V2のプレート電流は私の経験則から 中μ管では2〜3mA,高μ管では0.5〜1mAが適当で,R1は前者の場合1kΩ,後者の場合3.3kΩ程度です.

V1のプレート電圧Vp1は,V3のコントロールグリッド入力最大信号電圧の1/2(おおむねV3のカソード電圧Vk3に等しい)とV1のプレート飽和電圧を足し合わせた電圧以上から,V1のプレート電源電圧Vb1からV3のコントロールグリッド入力最大信号電圧の1/2を差し引いた電圧以下の範囲に設定する必要があり,Vb1がVb2と共通の場合のようにVb1の電圧に十分な余裕がある場合は,Vp1をVb1の1/2程度に設定します.
Vp1の設定はV1のプレート負荷抵抗Rpを変えて調整できますが,V1が5極管の場合ではそのスクリーングリッド電圧Vsg1を変えることで調整できます.

R2とVsg1の値は,使用する球の正確な特性データーがあれば計算によってでも求められますが,実際に配線した回路で次の方法によって動作を確認しながら調整した方が手っ取り早く確実です.

  1. 始めにVsg1を0にしておいてVk1が2〜3VとなるようにR2を調整します.
  2. 次にVp1がVb1の1/2程度となるようにVsg1を調整します.

V3のプレート電源電圧Vb2やスクリーングリッド電圧Vsg2,カソード抵抗,出力トランスの1次側インピーダンスは,使用する出力管のA1級シングル動作例またはその設計方法の通りにします.

水平偏向出力管のように低いスクリーングリッド電圧で大きなプレート電流の流れる球で無意味にVsg2を高く設定すると,プレート電流を適当な値に絞るためにカソード抵抗を大きくして深いバイアス電圧を掛けなければならなくなり,カソード抵抗による電力ロスが増すだけでなく,gmの低い領域が動作点となってしまうために,強力な負帰還を掛けて高いダンピングファクターを得ようとする超3極管接続アンプとしては好ましくないので,必要な最大プレート電流が得られる限界までVsg2を低く設定するのが得策です.

V3のカソード抵抗Rkと並列のバイパスコンデンサーCbは,容量が小さいと低域振動を起こすことがあるので,できるだけ大容量のものを使ってください.

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Copyright © 1997 Shinichi Kamijo. All rights reserved.
最終更新日: 2000/04/23 11:33:23 +0900


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